料理人の時間は1 どのように始まり1

9 - 料理人と仕事 / 第一章 若き料理人へ

料理人と仕事 / 第一章 若き料理人へ / 料理人の時間は1 どのように始まり1

時間を軸(じく)としてながめると、料理人の仕事は、どのように始まり、なにを経て、どこへ至るのか。
その到達目標は「ひとりの優秀な料理人」として、ほぼまちがいはないと思う。これは、多くの料理人の、つねなる願望ともいえるものだ。

これにともなう現実面が、年令に見あうところの、技術であり、給料であり、肩書きであり、また、出せる料理のレベルであり、料理ができる環境であり…と考えられる。

目標はひとつであっても、そこに至る過程はいろいろです。おなじ洋食にたずさわるにしても、その人が、どういう調理場にいるか、その調理場で、なにが、どのように行われているか、それによって、その人がつくる料理も、その人がいだく料理人の理想像も、ある程度はちがってくる。

調理場のシステム

調理場は、食べられる素材を〝料理〟にかえる場所です。だからどの調理場でも、仕事を成り立たせる工程と、それを行なう人間の配置は、たいていおなじです。

つまり、

親方がいて──これはメニューをつくるし、計算もするし、仕事も教える。いわば総監督。──

二番がいて──「親方のする仕事ができるように」をモットーに、とくに調理場を監督する。そしてブチャー(肉や魚の切出し)を兼ねることが多い。庖丁をまちがえると利潤にかかわるから、どこも上の者の仕事です。──

三番がいて──「二番のする仕事ができるように」をモットーとして、ストーブ前にいて、煮たり、焼いたり、混ぜたりして、お客に出す皿を仕上げる。──

その下に──下ごしらえ。入荷素材を最初にあつかうところ。洗ったり、筋やウロコをとったり、フォン(出し汁)をつくったりして、ストーブ前やブチャーがすぐつかえるような状態をつくる。洗い場。鍋洗いと食器洗い。──

がある。

これが、調理場の規模──食堂の席数──によって、いろいろに変わる。いちばん小さい調理場は、極端に言えば、ただひとりの料理人が、時間をやりくりして、親方から野菜洗いまでをする。

逆に、ホテルなどの巨大な調理場では、親方(チーフ)がいて、二番(セコンド)がいて、三番(サード)以下はセクションに分かれて、そこでさらにセクションのチーフ、セコンド、サードとなる。したがって、必要があれば、親方のほうを、ジェネラルのチーフとか、料理長とよぶ。

これら両極端の中間にあって、多くを占めるのが、さきほどの、四段階をもった調理場です。

これは料理人を育てるためには、ノーマルな環境です。なぜなら、調理のはじめから終わりまでが、目のとどく、ひとつの場所内にあるので、初心者は、最初から、料理の工程を見ることができ、自分のやっている作業を、位置づけることができる。また教えるほうも、その場その場の必要に応じて、手もとの作業と関連させながら、いわばトータルに教えることができる。

とはいえ、一般論ばかりでは仕方ないから、ここの調理場を例にとりましょう。

ここでは、レストランとメインキッチンの二系統がある。ホテル内の各レストランは、ア・ラ・カルト(お客がメニューをみて、その場で注文する料理)を受ける調理場、メインキッチンは、ア・ラ・カルト以外のすべて──個室の会食、宴会やパーティー、出張料理など──を引き受ける調理場です。

レストランのほうは、それぞれに、独立した調理場をもっている。メインキッチンのほうは、大きい調理場のほか、個室のある階には、仕上げ用の調理場があるし、仕込みとか、ベーカー(製菓)とか、セクションのうちのいくつかは、別のところにある。

しかし、本来的には、だだっぴろい、ひとつの調理場とおなじです。たとえて言えば、一方に、ひとつだけ、注文を受ける入口があって、反対側には、ア・ラ・カルト用、会食用、宴会用という出口がある。その中間に、各セクションがならんでいて、肉を焼いたり、野菜の皮むきをしたり、菓子をつくったりしている。はいってきた注文は、必要なセクションをとおって、料理というかたちになって、各戸口から出ていく。この風景を、パズルのような断片にして、館内のあちこちに、はめこんだのが、あつかう数量の多い、ホテルなどのシステムです。

料理そのものは、一般のレストランも、ホテルも、かわらないと思う。ちがうのは、料理にともなう環境でしょう。レストランは、食事を提供するところで、人間の食事時間だけに対応する。

ホテルは、宿泊と食事を提供するところであって、人間の意識外の時間もふくめた、生活時間帯に対応している。だから、ホテルの基本業務は、そこにいる人たちすべてに、「安全」と「サービス」を提供することです。そのサービスの一部に「安全で、良質で、おいしい食事を提供すること」が入っている。

あとは、面積のちがいによって、通過する人数にちがいがあること。一千名の婚礼、二千名のビュッフェ、これらの重複を日常のできごととして、メインキッチンは動いている。

それでは、若い人が、料理人として調理場に入ったときを、時間軸のはじまりとしましょう。

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