Histoire de mille nuits 03

03_ローマは金褐色のプディング。

「全体としてローマはまったく平たい、あるいはどちらかといえば、金褐色のプディングかふくらみ損なったケーキのように真中がへこんでいる」(ローマ歴史散歩・エリザベス・ボーエン・篠田綾子訳・晶文社)たぶん誰でもが知っているプリン。世界大百科事典(平凡社1968年版)で調べると、プリン項がない。で、類語のプディングで探すと「菓子のプディングはイギリスが始祖で、甘味料理(スイート・アントルメ)として、デザートコースに供される蒸菓子の代表的なものである。その数もきわめて多くプラム・プディングとかライス・プディング、パン・プディング、カスタード・プディング…作り方によって7~9種類に分けられる。日本でプリンとなまって愛好されているカスタード・プデイングは…」と書かれていました。イギリスが本場というので、いくつかの専門書をみてみましょう。まずは、年代を遡り、1923年発行の「MRS BEETON’S EVERY-DAY COOKERY」という家庭向け料理書です。ここには「PUDDING,SOUFFLES,OMELETS AND FRITTERS」という項がありました。その中でプディングは「ALMOND CASTLES」「ALMOND PUDDING,BAKED」から始まり、「PLUM PUDDING」「CHRISTMAS PUDDING」「YORKSHIRE PUDDING」まで、アルファベット順に90種類のプディングの作り方が載っています。この当時、さまざまなスタイルのプディングが作られていたことがわかります。そのなかでも、現代風のプリンに似たもの、カスタード・プディングと同じものもあります。現代イギリスの料理専門書「THE TASTE OF BRITAIN」には、イギリス各地の銘菓とも呼べる伝統的なプディングが紹介されていて、なかでも「SUMMER PUDDING」「CHERRY BATTER PUDDING」「BAKEWELL PUDDING」といった名高いものの作り方が紹介されています。さて、プリンはカスタード・プディングから派生したものと考えられますが、ベイクド・カスタード(BAKED CUSTARD)というほうが良いのかもしれません。カスタードとは「卵と牛乳、砂糖、香料」で作るクリームで、これを型に詰めて、蒸焼きにしたのがベイクド・カスタード、つまりプリンです。このカスタードは粉が入らない(カスタード)クリームで、粉を加えて鍋で煮上げるとカスタードクリーム(シュークリームなどに良く使う)になります。フランスには型詰めにして焼くポ・ドゥ・クリーム(POTS DO CREME)があります。これはベイクド・カスタードよりやわらかい配合なので、とても型から出せないので、小さな型ごと供しています。プリンといえばカラメル・プディングで、器の底にカラメルを入れてプリン液を詰めるものです。イギリスではカラメル・カスタード(プディング)(CARAMEL CUSTARD)と呼びますが、フランスのクレム・ランヴェルゼ(CREME RENVERSEE)という名前「逆に返すクリーム」の方がぴったりしているように思えます。これは型に詰めて焼いた後に、皿などに型から逆に返しながら移すことで、底に詰めてあるカラメルは熱でソース状になってきれいにかかります。もともと洋菓子店では金属製の型を使って焼いていたので、焼き上げたプリンは型からあける必要がありました。プラスチック容器の普及があっても、もともとの「皿に返す」考え方は残り、その形が現代に伝わってきています。器ごと食べる人が増えてきても、カラメルは底にあり、これはちょっと変な話でもあります。カラメルは上面に移動させるべきかもしれません。そこで流行ったのが「クレム・ブリュレ」なのでしょうか。プディングのバリエーションが多いのは、基本的なプリンに、いろいろなもの「果物やナッツ類」などを加えられるからで、チェリーやマロン、レーズン、プラム、アーモンド、ヘイゼルナッツ、クルミなど、さまざまなプディングが考えられます。カラメル・プリンも焼いたプリンに別に用意したカラメルソースをかけてもOKなのです。さらにカラメルを混ぜたクリームを蒸焼きにしても良いので、この自由な発想が洋菓子の良いところかもしれません。さて、イギリス以外のヨーロッパ各国にもプリン(プディング)が多くあります。その中で試してみたいのは、まずノルウエーのサワークリーム・プディング(NORVEGIAN CREAM PUDDING)。サワークリームと牛乳、少量の粉で作る真白いクリームにシナモンをさっとかけて食べます。サワークリームの酸味、シナモンの香り、北欧のさわやかな風が吹いてくるような味わいです。また、スペインのカタロニア・カスタード(CREMA CATALANA)は特産のオレンジ果汁を加えたもので、上面に砂糖をふりかけて、これを焼ゴテでカラメル状にします。フランスのブルゴーニュ地方にはリゴドン(RIGODON)と呼ばれるブリオッシュとクルミを混ぜたプディングがあります。どっしりとした味わいは古き時代から伝わる銘菓ともいえます。ところで、プリンを食べていると「茶碗蒸し」を想いだします。茶碗蒸しとプリン。材料は異なるけれど、配合の構成と作り方(焼き方)は良く似ています。大正~昭和年代に発行された日本の家庭向け料理書には「ベークド・カスタード(牛乳と玉子の蒸菓子)」の作り方が載っていて、そこには「…鍋蓋をして火に架けますと、日本料理の茶碗蒸しの様に出来ます…」という記述があり、もしかしたらプリンと茶碗蒸しは同じルーツにあるのかもしれない。などと考えながら茶碗蒸し(プリン)を食べています。

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洋菓子千一夜物語
10点

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