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料理人と仕事 デジタル

第1章 若き料理人へ

第1章 若き料理人へ

電子書籍:108ページ(原本より計算)
配信元:Amazon
販売価格:500円(税込価格)
著者:木沢 武男
発行 : 有)モーリス・カンパニー

なにも知らない人が、調理場に入ったときから、学んで育って登って、そして料理人を終えるまで…

いまは、自分で職業をえらぶことができるでしょう。
えらぶ前なら、料理人でも、絵かきでも、洋服屋でも、何にでもなれるわけ。
ところが「自分は料理人になるんだ」と決めると、たいがいは、絵かきにも、洋服屋にもなれない。
「ひとつをえらぶ」というと、いかにも積極的に聞こえるけれど、裏がえしてみれば、「それ以外をえらばない」。
大げさに言えば、料理人以外の、あらゆる職業にたいする自分の可能性を、自分の意志で断ち切ること、これがすなわち、自分は料理人を職業とする、ということです。

もちろん、こう言う人もある。
「ひとつをえらんだら、あとは自動的に、えらばれないだけだ」
自動的にのこると考えるか、捨て去ると考えるか……、たとえば、机の上に五個の石があるとする。それを自分にとって一個にしたいとき、方法はふたつあるでしょう。
ひとつは、一個を自分の手にとって、あとの四個は机の上にのこしておく方法。
ひとつは、自分の決めた一個はそのままにして、あとの四個を、机から払いおとしてしまう方法。
結果は、どちらもおなじように見える。しかし、その一個のもつ、自分にとっての意味あいまで、「おなじ」といえるものだろうか。えらぶということの裏がわを、どうとらえるかによって、選択をおこなった意志の質に、なんらかの差が生じると思う。
だから、いまからの若い人が、「料理人にでもなろうか」「料理人にしかなれそうもない」、この程度で職業を決めるとしたら、料理界にかぎらず、これからの、おそらく変化の多い時代を、生きるのはむずかしい。

意志がなければ、なにものも生まれない。
やっていくうちで、日々の仕事のなかに、おもしろみを見いだすことも、それを追いもとめることも、意志がなければ、苦痛になるだけです。
努力の積みかさねである料理人の道を、迷わず、息切れせず歩むには、妥協の入らない意志が、どうしても必要です。これは教えることも、分けてやることもできない。そして、歩みつづけて終点に至ることで、ひとつの職業をえらびとった責任を、自分にたいして果たすことができる。

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